
前回は、指定管理者が運営する公共施設のWebサイトについて、一般的な企業サイトとの違いや、予約システム・宿泊関連システム、行政や現場との調整について書きました。
今回はもう少し視点を利用者側に移して、公共施設は誰にとって使いやすくあるべきなのかについて考えてみたいと思います。
結論から言えば、私は公共施設が「誰にとっても同じように使いやすい」必要はないと思っています。
ホテルと道の駅では利用目的が違いますし、コミュニティセンターとプールでも利用者の動きは全く違います。
施設ごとに正解は違う。
ただし、ひとつだけ共通していると思うことがあります。
使いたい人を迷わせたり、必要な情報に辿り着けないことで使えなくしてはいけない。
公共施設を考えるうえでは、この考え方がかなり重要なのではないかと思っています。
「誰にでも使いやすい施設」を作るのは難しい
公共施設というと、「誰でも使いやすい施設であるべき」という言葉をよく耳にします。
もちろん考え方としては間違っていないと思います。
ただ、実際に施設運営に関わってみると、すべての利用者にとって同じように使いやすい状態を作ることは現実的ではありません。
例えばホテルを利用する人と、地域のコミュニティセンターを利用する人では、施設に求めることが違います。
道の駅なら、
- 食事をしたい人
- 買い物をしたい人
- 休憩したい人
- 観光情報を探している人
など、利用目的そのものがバラバラです。
プールでも、
- 個人で泳ぎたい人
- 教室に参加したい人
- 子どもを連れて利用したい人
- 団体や大会で利用したい人
では必要な情報が変わります。
つまり、公共施設における「使いやすさ」は一つではありません。
その施設を何のために利用するのかによって、必要な情報も導線も変わります。
大切なのは「迷わせない」こと
だからこそ、個人的に一番重要だと思っているのが、利用者を迷わせないことです。
すべての人に同じ画面、同じ導線、同じ情報を見せる必要はありません。
むしろ、利用目的ごとに入口を分けた方が分かりやすい場合があります。
例えば音楽ホールなら、
- 公演を見に来る人
- ホールを借りて公演を行う主催者
では求める情報が全く違います。
来場者なら公演情報、チケット、アクセス、座席などを知りたい。
主催者なら利用料金、空き状況、舞台設備、申請方法などを知りたい。
この2種類の人を同じ導線だけで案内しようとすると、どうしても分かりづらくなります。
だから、公共施設のWebサイトでは目的別に複数の導線を用意するという考え方が必要になります。
「施設について」
「利用案内」
「イベント情報」
といった運営側の都合で分類するだけではなく、利用者が何をしたくてサイトに来たのかから逆算して考える必要があります。
すぐ知りたい情報は、すぐ見つからなければ意味がない
公共施設のサイトでは、情報量がかなり多くなりがちです。
施設概要、設備、利用料金、イベント、アクセス、予約方法、各種申請書など、掲載しなければならない情報が増えていきます。
ただ、情報を掲載していることと、利用者がその情報を見つけられることは別です。
特に、
- 利用料金
- 営業時間・開館時間
- 休館日・定休日
- 利用方法
- 予約方法
- 禁止事項・注意事項
- アクセス
といった情報は、できるだけ早く案内できる状態にしておく必要があります。
例えば営業時間を知りたいだけなのに、何ページも移動しないと見つからない。
利用料金を確認したいのに、PDFの中を探さなければならない。
施設を利用したいのに、予約が必要なのかどうかすら分からない。
これでは、情報自体は掲載されていても、使いやすいとは言えません。
公共施設では特に、利用するかどうかを判断するための基本情報を迷わず確認できることが大切だと思います。
デジタルに慣れている人だけを基準にはできない
Webサイトや予約システムを作る側にいると、どうしても普段からスマートフォンやパソコンを使っている人を基準に考えてしまいがちです。
ですが、公共施設を利用するのはそういう人だけではありません。
高齢者やデジタル機器の操作に慣れていない人など、Web上で情報を探すこと自体にハードルを感じる人もいます。
個人的には、こうした人たちを基準にすべてを設計することが自然だとは思っていません。
ただし、だからといって考慮しなくていいとも思いません。
情報にアクセスすることが苦手な人を完全に置き去りにしてしまえば、結果として利用できる人と利用できない人を生み出してしまうからです。
公共施設は、利用者を選ぶことが前提のサービスではありません。
だからこそ、便利な人だけが便利になればいいという設計にはしない方がいいと思っています。
効率化より「取り残さないこと」を優先したい
最近はさまざまなサービスがオンライン化されています。
予約、決済、申請、問い合わせなど、Web上で完結できることはどんどん増えています。
施設を運営する側にとっても、オンライン化によって業務負担を減らせるケースはあります。
ただ、公共施設の場合は効率化だけで判断するのは少し危険だと思っています。
例えば、すべてをオンライン予約だけにすれば管理は楽になるかもしれません。
しかし、そのシステムを使えない人はどうするのか。
Web上の説明だけでは理解できない人はどうするのか。
そう考えると、公共施設のデジタル化では、どれだけ効率化できるかだけではなく、誰かを取り残していないかという視点も必要になります。
私自身、効率化と取り残さないことのどちらかを選ぶのであれば、公共施設では後者を優先すべきだと考えています。
施設ごとに「使いやすさ」の正解は違う
ここまで書いてきましたが、公共施設全体に共通する「こうすれば使いやすくなる」という正解があるとは思っていません。
ホテルと道の駅では違います。
コミュニティセンターとプールでも違います。
音楽ホールと公園でも違います。
利用目的も違えば、利用者層も違い、必要な情報も違います。
だからこそ、施設ごとに、
- どんな人が利用するのか
- 何を目的として利用するのか
- 利用者が最初に知りたい情報は何か
- どこで迷いやすいのか
を考える必要があります。
一律のテンプレートを当てはめるのではなく、その施設の利用者に合わせて導線や情報の出し方を変える。
これが公共施設のWebや案内を考えるうえでは重要だと思います。
「使いたいのに使えない」を作らない
公共施設を誰にとって使いやすくするべきなのか。
私自身、明確に「この人に合わせるべき」と答えられるものではありません。
施設によって利用者は違いますし、すべての人に同じ使いやすさを提供することも難しいと思います。
ただし、使いたいと思っている人を迷わせない。
必要な情報を見つけられないことで利用を諦めさせない。
デジタルに慣れていないという理由だけで取り残さない。
このあたりは、施設の種類に関係なく共通して意識する必要があると思っています。
指定管理の仕事に関わるようになってから、民間サービスとは少し違う考え方が必要だと感じる場面が増えました。
効率や便利さだけではなく、その地域にいるさまざまな人が利用できる状態をどう作るのか。
それを考えることも、公共施設を運営する仕事の一部なのだと思います。
次回は、この「取り残さない」という考え方とも関係する、公共施設のDXはシステムを導入すれば終わりなのかという話について書いてみようと思います。


