
ここまで、指定管理者の仕事や公共施設のWebサイト、DXなどについて書いてきました。
今回は、指定管理施設の運営が切り替わる際に行われる「引き継ぎ」について書いてみようと思います。
指定管理施設を新たに受託すると、当然ながら前の運営者からさまざまな情報を引き継ぐことになります。
施設の設備や備品。
日々の運用方法。
各種契約。
そして、ネット回線やシステム、WebサイトなどのIT関係。
「前の事業者から資料をもらえば分かるんじゃないの?」
と思われるかもしれません。
ただ、実際に何度か施設の引き継ぎに関わってみると、そんなに簡単ではありませんでした。
むしろ、必要な情報がどこにあるのか、誰が知っているのかを探すところから始まることも珍しくありません。
引き継ぎ元によって困り方がかなり違う
まず、指定管理施設の引き継ぎといっても、前の運営者によって状況はかなり違います。
私がこれまで経験した中では、大きく分けると、
- 財団などから引き継ぐケース
- 別の指定管理事業者から引き継ぐケース
があります。
同じ公共施設の引き継ぎでも、この2つでは困るポイントが少し違います。
財団からの引き継ぎは「誰が知っているのか」を探すことが多い
もちろん、財団といっても地域や組織によって全然違います。
それ以上に、担当者によるところがかなり大きいと感じています。
設備や契約について非常に詳しい担当者もいれば、
「それは分かりません」
「施工した会社に聞かないと分かりません」
というケースもあります。
特に、ネットや電話などの回線関係、決済システムなどでは、この状態になることがよくあります。
そうなると、こちらから施工業者や発注業者の連絡先を教えてもらい、そこへ直接連絡して確認していくことになります。
以前、施設施工時の青図について確認した際に、
「ありません」
と言われたことがありました。
その時はさすがに少し笑ってしまいました。
他にも、
- 施設内の看板に使われているフロアマップの元データがない
- Webサイトに掲載されているフロアマップのデータがない
- 施設写真のデータがほとんど残っていない
といったこともあります。
Webサイトを新しく作る際に使える写真がなく、結局こちらで施設写真を撮り直すということもあります。
正直、
「今までどうやって管理していたんだろう」
と思うこともあります。
ただ、これも単純に前の担当者が悪いというより、長年の運営の中で、誰が何を管理するのかが整理されないまま引き継がれてきた結果なのかもしれません。
別の指定管理事業者からは情報がギリギリになることもある
一方、別の指定管理事業者から引き継ぐ場合は、また違った難しさがあります。
こちらの場合、情報自体は持っていることが多いです。
ただ、情報が出てくるのがかなり遅くなることがあります。
前の指定管理者も、指定期間の最終日までは施設を運営しています。
当然、日々の営業があります。
スタッフも通常業務を行いながら、次の事業者への引き継ぎを進めなければなりません。
そのため、
「回線の契約情報をください」
「予約システムについて教えてください」
「Webサイトの管理情報をください」
と確認しても、なかなか情報が出てこないことがあります。
行政側からも確認してもらいながら、少しずつ情報が出てくる。
そして気付けば、運営開始日がかなり近づいている。
そんなケースもあります。
これは前事業者が意図的に情報を出さないというより、撤退する施設の引き継ぎよりも、目の前の日常業務にリソースが割かれやすいという部分も大きいのだと思います。
ただ、こちらとしては運営開始日に、
ネットが使えない。
電話がつながらない。
システムにログインできない。
という状態にするわけにはいきません。
そのため、早い段階から確認を始める必要があります。
まず確認しておきたいのは回線周り
私が引き継ぎの際にまず確認するのは、回線関係です。
ここでいう回線には、インターネットだけではなく電話も含みます。
例えば、
- インターネット回線
- プロバイダ
- 固定電話
- FAX
- ルーター
- 館内Wi-Fi
などです。
確認したいのは、単純に「何を使っているか」だけではありません。
誰の名義で契約しているのか。
契約番号は分かるのか。
そのまま名義変更できるのか。
一度解約して新しく契約する必要があるのか。
設置されているルーターなどの機器は誰の所有物なのか。
保守会社はどこなのか。
この辺りまで確認しておかないと、切り替えの際に困ります。
資料を見ても分からない場合は、実際に現地を確認します。
複合機やルーターなどを見ると、保守会社や施工会社のラベルが貼られていることがあります。
そこに書かれている連絡先へ電話をして、
「この施設のこの機器について確認したいのですが」
と問い合わせる。
少し地味ですが、こうやって現地にある機器から情報を逆引きすることもあります。
システムは「誰が管理しているのか」まで確認する
次に確認するのがシステム関係です。
予約システムや決済システムなどは、施設を運営している代表企業がすべて管理しているとは限りません。
指定管理では、複数企業によるJVで施設を運営しているケースもあります。
例えば、イベントなどで利用している予約システムについて確認したところ、
「そのシステムはJVを組んでいる別会社が管理しています」
ということがあります。
すると、今度はその会社へ確認します。
さらに、その会社からシステム会社を紹介してもらって、ようやく詳しい契約内容や運用方法が分かる。
ということもあります。
つまり、
施設の担当者に聞けば全部分かるわけではありません。
無線LANや監視カメラなども同じです。
施工した会社。
保守している会社。
契約している会社。
実際に管理している会社。
これらが別々になっていることがあります。
そのため、システムを確認する際には、
「何を使っているのか」
だけではなく、
「誰が管理しているのか」
まで確認するようにしています。
Webサイトも立派な引き継ぎ対象
Web関係も忘れてはいけません。
最低限でも、
- ドメイン
- サーバー
- CMS
- Googleアナリティクス
- Google Search Console
- Googleビジネスプロフィール
- SNS
などがあります。
Webサイト自体は目に見えるので、引き継ぎ対象として認識されやすいと思います。
ただ、その裏側にある管理情報までは整理されていないことがあります。
ドメインは誰が契約しているのか。
どこの会社で管理しているのか。
サーバーはどこなのか。
どのメールアドレスでアカウントを作っているのか。
制作会社が管理しているのか。
自治体が管理しているのか。
前事業者が管理しているのか。
ここが分からないと、Webサイトを移管したり、新しいサイトへ切り替えたりすることができません。
サイトそのものだけではなく、そのサイトを動かしている契約やアカウントまで確認する必要があります。
引き継ぎ前に最低限確認しておきたいこと
指定管理施設といっても、施設の種類はさまざまです。
コミュニティセンター。
複合施設。
道の駅。
プール。
宿泊施設。
施設によって設備もシステムも運用方法も違います。
そのため、「このチェックリストさえあればすべて大丈夫」というものを作るのは、なかなか難しいと思っています。
それでも、最低限共通して確認しておいた方がいい項目はあります。
| 項目 | 確認すること | 主な確認先 |
|---|---|---|
| インターネット回線 | 回線会社、契約名義、契約番号、名義変更や継続の可否 | 前事業者、自治体、回線事業者 |
| 電話・FAX | 電話番号、契約会社、契約名義、回線種別 | 前事業者、通信会社 |
| Wi-Fi | ルーター、AP、SSID、管理方法、機器所有者、保守先 | 前事業者、施工会社、保守会社 |
| 予約システム | 契約主体、管理者、運用方法、データの扱い | 前事業者、JV構成企業、システム会社 |
| 決済・POS | 契約会社、端末所有者、管理方法、入金や締め処理 | 前事業者、決済会社、保守会社 |
| Webサイト | ドメイン、サーバー、CMS、契約者、管理アカウント | 前事業者、自治体、制作会社 |
| その他設備 | 監視カメラ、入退室管理などの施工会社、管理方法、保守先 | 前事業者、施工会社、保守会社 |
この辺りを先に整理しておくだけでも、引き継ぎはかなり進めやすくなります。
システムだけではなく「今どう運用しているのか」も聞いておく
もう一つ重要なのが、現在の運用方法です。
例えば予約システムがあるとしても、
「そのシステムを使っています」
という情報だけでは足りません。
予約が入った後に、現場スタッフが何をしているのか。
電話予約はどう処理しているのか。
イベントの申し込みはどう管理しているのか。
決済後の確認は誰がしているのか。
現場には現場なりの運用があります。
システムを引き継いでも、そのオペレーションが分からなければ、同じように運営することはできません。
そのため、
現在どんな仕組みを使っているのかと同時に、現在どんな運用をしているのか
まで確認できるのが理想です。
できれば「今困っていること」も聞いておきたい
さらにできれば、現在抱えている課題についても確認しておきたいと思っています。
例えば、
「Wi-Fiがよく切れる」
「予約管理が二重になっている」
「このシステムだけ使いづらい」
「このPCだけ調子が悪い」
といったことです。
こうした情報が事前に分かっていれば、新しい運営が始まるタイミングで改善できる可能性があります。
ただ、これはなかなか引き出すのが難しい部分でもあります。
別の指定管理事業者からの引き継ぎであれば、自分たちの運営上の課題を次の事業者へ積極的に伝える理由もあまりありません。
そのため、行政側も交えながら確認できれば聞いておく、くらいになることが多いです。
引き継ぎ資料だけでは分からないことも多い
ここまで書いてきましたが、何度か施設の引き継ぎを経験して感じているのは、
「資料を受け取ったから引き継ぎ完了」ではない
ということです。
資料に書いてある内容と、実際の現場が違うこともあります。
そもそも資料が存在しないこともあります。
担当者も分からない。
契約書も見つからない。
設定情報も残っていない。
そんな時は、結局現地を見るしかありません。
ルーターを見る。
複合機を見る。
監視カメラを見る。
配線を見る。
機器に貼られているラベルを見る。
そこから施工会社や保守会社へ問い合わせる。
実際の指定管理施設の引き継ぎでは、資料を読む作業というより、必要な情報を一つずつ探していく作業になることがあります。
自分たちが撤退する側になった時に何を残すか
指定管理は、一度受託した施設を永久に運営する制度ではありません。
指定期間が終われば、また公募が行われます。
当然、いつか自分たちが引き継ぐ側ではなく、引き渡す側になる可能性もあります。
では、その時にどこまで情報を残すべきなのか。
個人的には、自社独自のノウハウまで次の事業者へすべて渡す必要はないと思っています。
指定管理者同士は民間企業として競争している以上、そこまで求めるのは違うと思います。
ただ、施設を最低限運営するために必要な情報は残しておくべきだとも思っています。
例えば、
- 最低限の施設運営マニュアル
- 回線や契約先の一覧
- システムの管理先
- 設備の施工・保守先
- 日常業務に必要な基本的な操作方法
などです。
次の指定管理者が運営を開始した日に、
電話が使えない。
ネットにつながらない。
予約システムへ入れない。
という状態になれば、最終的に困るのは施設の利用者です。
競争する部分と、公共施設を継続して運営するために必要な情報は、分けて考える必要があると思っています。
指定管理の引き継ぎは「受け取る」より「探す」ことが多い
指定管理施設の引き継ぎというと、
前の運営者から資料を受け取って、それを確認する。
というイメージがあると思います。
実際にやってみると、
誰が知っているのかを探す。
どこの会社が施工したのかを探す。
何の契約なのかを探す。
誰がシステムを管理しているのかを探す。
という作業になることがかなりあります。
だからこそ、引き継ぎが始まってから、
「何を確認すればいいんだっけ?」
と考えるのではなく、最低限の共通項目だけでも事前に整理しておくことが重要だと思っています。
施設ごとに必要な情報は違います。
万能な引き継ぎチェックリストを作るのは難しいです。
それでも、
回線。
システム。
現在の運用方法。
現在抱えている課題。
この4つについては、施設の種類にかかわらず早い段階で確認しておいた方がいい。
そして、資料だけで分からなければ現地を見る。
分かる人がいなければ、施工会社や保守会社まで辿る。
指定管理施設の引き継ぎは、用意された情報を受け取るだけではなく、必要な情報を自分たちで探しにいく仕事でもある。
何度か実際の引き継ぎに関わって、今のところ私はそんなふうに感じています。


