
「指定管理者」という言葉を聞いて、どんな仕事をしているのかすぐにイメージできる人は、意外と少ないのではないでしょうか。
道の駅、コミュニティセンター、音楽ホール、体育館、屋内プール、公園。
普段何気なく利用しているこうした公共施設の中には、自治体が直接運営するのではなく、「指定管理者」と呼ばれる民間企業や団体などが管理・運営している施設があります。
自分は現在、この指定管理という仕事に関わっています。
とはいえ、自分の場合は「指定管理って何?」という状態からこの業界に入ったわけではありません。
前職は制作会社で、現在勤めている会社はその頃から約6年間継続して取引していたクライアントでした。
Web制作などを通じて施設にも関わっていたため、入社する頃には指定管理という仕事の全体像は何となく理解していたつもりです。
ただ、実際に運営する側へ入ってみると、外部の制作会社から見えていたのは仕事のほんの一部でした。
今回は制度を細かく解説するというより、実際に公共施設の運営に関わる立場から、「指定管理者って結局何をするのか」「公共施設を運営する仕事は、普通の民間企業と何が違うのか」について、自分なりに書いてみたいと思います。
※本記事は筆者個人の経験や考えをもとにした内容であり、所属する組織や自治体等の公式見解を示すものではありません。
そもそも指定管理者とは?
ものすごく簡単に説明すると、指定管理者制度とは、公共施設を一定期間、民間企業や団体などが自治体から指定を受けて管理・運営する仕組みです。
対象となる施設は本当にさまざまです。
- 道の駅
- コミュニティセンター
- 音楽ホール・文化施設
- 体育館
- 屋内プール
- 公園
- 温浴施設
- 複合公共施設
などがあります。
「公共施設=市役所などの職員が運営している」と思われることもありますが、実際には指定管理者が現場の運営を担っている施設もあります。
そして、この「管理」という言葉。
実際に仕事をしてみると、かなり実態を狭く表現している言葉だなと感じます。
指定管理者の仕事は「施設が正常に動くためのほぼすべて」
指定管理者の仕事について聞かれたとき、自分ならこう答えます。
その施設が正常に運営されるために必要なこと、基本的にはすべて。
受付や清掃、設備管理といった分かりやすい仕事だけではありません。
もちろん施設によって違いますが、
- スタッフの採用・教育
- 施設運営
- 設備管理
- 利用者対応
- イベントや自主事業の企画
- 広報・Web・SNS
- 予約システムなどの導入
- PCやネットワーク環境の整備
- テナントや各種事業者との調整
- 自治体との協議や報告
- 売上・利用者数などの管理
など、仕事の範囲は非常に広いです。
特に新しくオープンする施設では、「施設を管理する」というより、一つの施設という事業をゼロから立ち上げるという表現の方が近いかもしれません。
新設の道の駅や複合施設は、とにかくやることが多い
新設施設の立ち上げは、施設の種類によって難易度が大きく変わります。
中でも道の駅や複合施設は、本当に準備することが多いです。
まだ建物すら完成していない段階から、施設長になる人と、その立ち上げをサポートする人が現地に入り、開業に向けた準備を始めます。
同時に現地スタッフの採用も進めます。
さらに道の駅や複合施設になると、
- テナントとの調整
- 商品の納入などを行う事業者との調整
- 各種設備やサービスの導入
- ネットワーク環境の構築
- 予約システムなど業務システムの選定
といった仕事も並行して動き始めます。
自分が関わったある新設の道の駅でも、建物や公園そのものの設計・建設を除けば、開業に向けた非常に広い範囲の準備を運営側で行いました。
ネットワーク設計もあれば、フードコートに入るテナントの選定もあり、予約システムの導入もある。
「公共施設の管理」という言葉だけでは、おそらくここまでの仕事は想像しづらいと思います。
同じ新設でも施設によって難易度はまったく違う
一方で、新設だからすべて同じように大変というわけでもありません。
例えばコミュニティセンターやプールの場合、もちろん開業準備は必要ですが、道の駅や大規模な複合施設と比較すると、関係する事業者や準備しなければならないサービスの種類は限定されます。
つまり、「新設施設だから大変」ではなく、「その施設で何を提供するのか」によって立ち上げの難しさが大きく変わる。これも実際に関わって分かったことの一つです。
既存施設には「引き継ぐ難しさ」がある
では、すでに運営されている公共施設を新しく指定管理者として引き継ぐ場合は楽なのか。
もちろん、そんなことはありません。
新設施設には「何もないところから作る大変さ」があります。
一方、既存施設には「今までどうやって運営されてきたのかを解きほぐす大変さ」があります。
既存施設では、前の運営者からさまざまな情報を引き継ぎます。
しかし、これまでどのように管理されてきたかによって、残っている資料や情報の粒度にはかなり差があります。
特にITや専門性の高い分野では、「この設定を誰がしたのか分からない」「契約内容が整理されていない」「必要な情報を誰が持っているのか分からない」といった状態から、一つずつ確認していかなければならないケースもあります。
新設はゼロから作る。
既存は、これまで積み上がってきたものを一つずつ整理する。
同じ指定管理でも、大変さの種類はまったく違います。
大きな組織ほど「ちょっと変える」が難しい
実際に会社の中へ入ってみて驚いたこともあります。
その一つが、会社の規模が大きくなるほど、何か一つを変えることが想像以上に難しくなるということです。
例えば、「メールの署名を統一しましょう」という話。
数人の会社なら、今日決めて明日変更することもできるかもしれません。
でも、従業員数が増え、全国に複数の施設があり、そこで働いている人たちの業務内容も違うとなれば、たったそれだけの変更でも簡単ではありません。
誰に伝えるのか。
どのように設定してもらうのか。
分からない人を誰がサポートするのか。
そもそも全員が同じメール環境を使っているのか。
一つの変更だけでも、考えなければならないことが一気に増えます。
ITリテラシーの差は想像していた以上に大きかった
もう一つ感じたのが、ITリテラシーの差です。
チャットツールやクラウドサービスを問題なく使える人もいれば、チャットツール自体をほとんど使ったことがない人もいます。
Outlookのメール設定など、日常的にPCを使っている人であれば当たり前と思ってしまうような操作でも、一人では難しいという人もいます。
同じ会社の中でも、ITとの距離感は本当にさまざまです。
だから公共施設のDXやIT化を考えるとき、「便利なシステムを入れれば解決する」では終わりません。
その仕組みを誰が使うのか。
その人たちが実際に使えるのか。
運用を誰が支えるのか。
そこまで考えないと、本当の意味で業務改善にはならないと感じています。
公共施設は「便利に使える人」だけを見てはいけない
これはあくまで自分の考えですが、公共施設を運営するうえで重要なのは、利用しやすい人だけを基準に考えないことだと思っています。
例えば民間サービスであれば、サービスを利用してほしい顧客層をある程度絞ることができます。
スマートフォンから予約できる人。
オンライン決済を利用できる人。
アプリを使える人。
そういったユーザーをターゲットにサービスを設計することもできます。
しかし、公共施設は基本的に地域のさまざまな人が利用する場所です。
高齢者もいれば、障害のある方もいます。
デジタル機器を使い慣れていない人もいます。
だから、「Web予約できるから電話受付は不要」「スマートフォンで確認できるから紙はいらない」と簡単に割り切れないこともあります。
IT化や効率化を進めながらも、利用するうえで何らかのハードルを感じる人にも目線を合わせる。
ここは民間サービスとは少し違う、公共施設ならではの考え方だと思います。
地域のためと会社のため。その両方を考える
指定管理では、自治体がその地域で抱えている課題にも向き合う必要があります。
施設の利用者を増やす。
地域の交流を生み出す。
健康づくりにつなげる。
観光客を呼び込む。
地域事業者との接点を作る。
施設によって目的は違いますが、単に「施設が問題なく開いていればいい」という仕事ではありません。
一方で、「公共施設だから会社の利益は考えなくていい」という話でもないと思っています。
民間企業が運営している以上、事業として継続できなければ意味がありません。
ここでいう利益は、単純な金銭面だけではありません。
良い施設運営ができれば、会社としての実績になります。
そこで働く人たちの経験にもなります。
次の仕事につながることもあります。
そして何より、地域が活性化して施設の利用者が増えることは、運営する会社にとってもプラスになります。
地域にとって良いことと、自社にとって良いこと。
その両方が成立する場所を探していくことが、指定管理という仕事の基本なのではないかと自分は感じています。
指定管理は「地域そのものに伴走する仕事」なのかもしれない
民間企業では「伴走型」という言葉をよく使います。
顧客企業に伴走する。
サービス利用者に伴走する。
見込み顧客に寄り添う。
多くの場合、その先には特定の顧客がいます。
でも指定管理は、少し違う気がしています。
向き合う相手は自治体だけではありません。
施設利用者だけでもありません。
地域の事業者や団体、そこで働くスタッフなど、本当にさまざまな人が関係します。
自治体が考えている地域課題に向き合いながら、利用者の声を聞き、地域の事業者や団体とも関係を作り、そこで働く人たちと一緒に施設を育てていく。
民間企業で使われる言葉を借りるなら、指定管理は、特定の顧客ではなく「地域そのものに伴走する仕事」なのかもしれません。
自分は今のところ、そう感じています。
現場で働く人たちの思いを知って、この会社に入ってよかったと思った
そして、自分がこの仕事に関わる中で、特に印象に残っている話があります。
数年前、ある地方の新設公共施設を当社が指定管理者として立ち上げました。
施設長として現地へ行ったのは、それまでその地域とは特に縁のなかった人。
一方、施設で働くスタッフの多くは現地で採用された方たちでした。
立ち上げ当初は地域との関係づくりにも苦労し、決して順風満帆ではなかったそうです。
それでも運営を続けていく中で少しずつ地域との関係ができ、やがて地元の利用者にも親しまれる施設になっていきました。
しかし、その後の指定管理者の選定では継続して運営することができず、当社はその施設から撤退することになりました。
そのことを施設長が現地スタッフ一人ひとりと面談しながら伝え、「力不足で申し訳ない」と話したところ、多くのスタッフが涙を流したそうです。
自分はその話を聞いたとき、かなり心を動かされました。
施設を運営するというのは、単に建物を管理して、受付をして、売上を作るだけの仕事ではない。
数年間一緒に働いた人たちが、運営会社が変わることを惜しんで涙を流すほどの関係が、そこにはできていた。
その話を聞いたとき、「この会社に入ってよかった」と素直に思いました。
これまで自分がやってきたことが、現場を支える力になる
自分はもともとWeb制作やITに関わる仕事をしてきました。
公共施設運営の専門家としてキャリアを積んできたわけではありません。
でも今は、これまでやってきたWebやITの経験を使って、現場で働く人たちをサポートすることができます。
ネットワークを整える。
Webサイトを改善する。
予約の仕組みを変える。
PCやシステムのトラブルを解決する。
業務を少し楽にする。
一つ一つは、自分にとってこれまでやってきた仕事の延長です。
でも、その先には施設を良くしたいと思っている人たちがいる。
そういう熱量や人間味のある人たちと一緒に仕事ができること。
そして、自分がこれまで身につけてきたものが、その人たちを少しでも支える力になること。
それは自分にとってすごく嬉しいことであり、光栄なことでもあります。
今の仕事を続ける大きなモチベーションにもなっています。
指定管理者は、単に公共施設を「管理する」仕事ではない
指定管理者とは何をするのか。
最初の質問に戻れば、公共施設を一定期間、管理・運営する仕事。
制度として説明すれば、それで間違いではありません。
ただ、実際にその中で仕事をしている自分としては、それだけでは少し足りない気がしています。
施設を立ち上げる。
スタッフと働く。
利用者と向き合う。
自治体が抱える地域課題を考える。
地域の事業者や団体と関係を作る。
そして、その施設が地域にとってどんな場所になればいいのかを考える。
そう考えると、指定管理という仕事は、
施設を管理する仕事というより、公共施設を起点に地域そのものに伴走していく仕事。
なのかもしれません。
このカテゴリーでは今後、指定管理者制度そのものだけではなく、公共施設のWebサイト、IT・DX、施設の立ち上げ、業務改善など、実際に仕事をする中で感じたことについても書いていきたいと思います。
